地球の潜り方
その52 奇々怪々なる運賃・旅行代金
以前にもこのコラムでは旅行代金に関する話題を取り上げた。
時々旅行用品をお店に覗きに行くことがあるが、その時に時々店員さんから言われることがあるのが「今は飛行機も安くなりましたから・・・」である。しかし、筆者は安くなったと思わない部分も多々あるのである。
確かに、昔はLCCはなかったし、国内航空運賃で現在の先得(日本航空)や旅割(全日空)に相当するものはなかった。そういう意味では安く乗ることは出来るようになった。しかし、このような運賃を除くと、ご存知の方も多いが決して安くなっているばかりではないのである。
筆者の基準にあるのは1990年代前半までの、航空運賃自由化前までの運賃である。筆者の記憶に間違いがなければ、この当時の東京−大阪間は個人普通運賃で片道14,600円、往復26,500円であった。(間違っていたら遠慮なく指摘を頂きたい。)現在の普通運賃(日航と全日空)は片道で25,000円ほどする。昔の往復運賃は今や片道運賃だ。だが、実際のところ普通運賃で乗る人はあまりいないと思うので、多くの人が購入する特割と比較してみると、現在の特割は休日日中(但し連休や繁忙期以外)で11,000円程度のものがある他は、13,000円以上である。時間帯によってはかつての個人普通運賃(片道)より少し高いのである。「おトク」と言われても全然実感がない。しかも、これらの運賃はじわりじわりと値上がりしている。エア・アジアのトニー・フェルナンデス氏が「日本の航空運賃はお話にならないくらい高い」と言うのも分からなくもない。
最近の話では、北陸新幹線の金沢延伸に対抗しての(?)3月からの特割値下げを見ると、運賃設定に不信感を持つ人もいるだろう。ダイバーが気になる沖縄方面では、スカイマークの宮古・石垣路線撤退後(4月以降)に特割運賃が著しく上がれば、不信感を持たれるだろう。スカイマーク絡みと言えば、かつての東京−福岡線での日本航空・全日空による「対抗運賃」の”前科”があるので、今後注目である。
これより安くとなると、先得(日本航空)や旅割(全日空)になる。非常に安い運賃ありますよ、と言っても、先得や旅割の一番安い、つまり最も購入期限の早い運賃である。現在のところ、先得は75日前(ウルトラ先得)、旅割も75日前(旅割75)であるが、「おトク」感を出すために、安い運賃をさらに早い購入期限で設定するのだろうか。「超ウルトラ先得」「ハイパー先得」「旅割90」「旅割100」が登場するのも時間の問題かもしれない。
※日本航空や全日空以外では既に80日前購入割引が存在する。
日本経済「失われた20年」というけれど、その間にしっかり値上がりするものはしているのである。
海外旅行でも、地域によっては代金が非常に高くなったところはある。ツアーの場合は航空運賃以外にホテル側の経営方針にも左右されるし、為替にも左右される。(国内線も含め、航空運賃も燃料代に左右されるが)筆者がすぐ思いつくのはモルディブである。十数年以上前ならば、6日間の旅行なら10万円台(2名1室での1名当たり)を探すのはさほど苦労しなかったと思うのだが、最近は殆ど見ることができないのではないかと思う。
航空運賃・旅行代金は連休となると跳ね上がる。例えば盆暮れ正月に家族で飛行機で帰省しようとしたら、距離にもよるが、場合によっては航空券代だけでボーナスの殆どが消えるか、あるいはそれでも足りないかということになってしまう。いつまでこんなことをやっているのだろうか。
もっとも、これらの商売がすべてぼったくりということはないし、高い価格にはそれなりの理由がある。地上設備を含む設備投資や、機材・人員体制の余裕、遅延・欠航時の振替処置等々の「安心料」が入っている。
地上設備関係として、国内線の搭乗手続きを思い出してみると、1990年代前半では、当時すでに自動チェックイン機はあったが、ツアーの航空券などを中心にカウンターでの手続きが必要な場合が多かったと思う。それが1990年代末には自動チェックイン機でのチェックインが主流になり、2000年代半ば以降は預け荷物がなければ保安検査場に直行できるようになり、乗継便があれば乗継便の搭乗案内も保安検査場で受け取れるようになった。
これらを見て、「ほら、決して高くないでしょ」と言われても、航空会社の人員削減や人件費削減の話と、「諸経費上昇による値上げ」を両方聞くと、本当にそうなの、と思ってしまうことがあるのである。
LCCは煩忙期を除けば結構安いので、確かに安く旅行できるが、海外LCCで時々あると言われる「突然の欠航」ほど極端ではないにしろ、機材・設備の余裕を持たないことに起因する欠航や遅れはあり、現に筆者がこれまで搭乗した国内LCC(国内LCCは全社搭乗)は、何れも大幅ではないが遅延した。大体皆納得しているようだが、このあたりは安さと引き換えのようだ。(2012年に国内LCCが運航を始めたときに、「LCCが軌道に乗らないと航空先進国と認められない」といった論調を見かけたが、筆者はこの趣旨があまり理解できない。)
これまでの商売の基準は「時間と利便性をカネで買い続けてくれるだろう」ということだったように思えてくる。しかし、それを求める必要のない人にとっては高い買い物になる。格安長距離バスやLCCがそれなりに流行るということは「時間をカネで買う」のではなく「時間でカネを買う」需要もあるということに思える。
旅行代金・航空運賃、奇々怪々である。
=おまけ:LCCという呼び方はあまり好きになれない。=
日本語で言う「格安航空会社」とは英語でLCC、このLCCのフル名称がLow Cost Carrierであるのは周知のとおりであるが、筆者はLCCという言い方がどうにも好きになれない。
「Low Cost」にした分運賃を下げずに儲けに回すという考えも当然あるわけで、筆者の記憶違いでなければかつてのJALWAYSやJAL EXPRESSはある程度これを指向したものであったと思う。格安運賃で乗せてくれるのだからLFC(Low Fare Carrier)という方がより正確で分かりやすいと思うのだが・・・。筆者の屁理屈である。
文責:折原俊哉(会員)