地球の潜り方
その79:ダイビング器材関連のイノベーションは何がある?
しばらく前から「イノベーションばやり」で、「日本はイノベーションがないからGDPが上がらない」等々の論調が継続して見られる。
1.イノベーションの定義
法的な定義はないというのは前述のとおり。参考に、Salesforceブログを見ると以下の通りである。(https://www.salesforce.com/jp/blog/innovation-definition/)
Innovationという言葉は直訳すると「革新」という意味を持ちますが、デジタルが浸透した現代の企業においては、新たなものを生み出し変革を起こすことで、社会的、経済的な価値を生み出すことを意味しています。 イノベーションを初めて定義した経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、著書「経済発展の理論」の中で、イノベーションを以下の5つに分類しています。
ー 新しい生産物の創出(プロダクト・イノベーション)
これまでに存在していたものを組み合わせたり、新たな発想を加えたりすることにより、今までにない新しい製品を作り上げるイノベーション。携帯電話やPCといったデバイスをもとに「手の中におさまるコンピュータ」として生み出されたスマートフォンは、プロダクト・イノベーションの産物の一つといえるでしょう。
ー 新しい生産方法の導入(プロセス・イノベーション)
画期的な方法を駆使し、物の生産やサービスの工程においてスピードアップ、効率化、簡略化などを実現するイノベーションです。プロダクト・イノベーションが具体的な製品の創造であるのに対し、プロセス・イノベーションは作業の工程(プロセス)におけるイノベーションを指しています。 日本国内で有名なプロセス・イノベーションとしては、「ムダ、ムラ、ムリ」をなくしたトヨタの生産ライン「かんばん方式」が挙げられます。
ー 新しい市場の開拓(マーケット・イノベーション)
それまでビジネス市場として見込まれていなかった領域に価値を見出し、新たな市場として開拓するのが、マーケット・イノベーションです。 例としてはテレビゲームにおける課金市場が挙げられます。 ・・・(以降省略)
ー 新しい資源供給の獲得(サプライチェーン・イノベーション)
製品の材料や部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの一連の流れを「サプライチェーン」と呼びます。このサプライチェーンの改革によって大きな成果を上げることを、サプライチェーン・イノベーションと呼びます。・・・(以降省略)
ー 新しい組織の実現(組織イノベーション)
組織の在り方を見直し改革を行うことで目覚ましい成果を上げるのが組織イノベーションです。既存の企業組織を超えた協業体制を作ったり、社内ベンチャー制度で新たな組織を作り上げたりすることも、組織イノベーションに含まれます。・・・(以降省略)
引用が長くなってしまったが、上記の説明がある。どんなことであっても、顧客がいる以上、価値を認められなければ「イノベーション」とは呼ばれない。
どうも、過去の概念とは全く異なる商品等々の「破壊的イノベーション」ばかり取り上げられるようにも見えるが、上記を見ると「これまでに存在していたものを組み合わせたり、新たな発想を加えたりすることにより・・・」とあるので、全くの新規開発に限定はされない。
2.ダイビング器材でのイノベーション
ここで、イノベーションに今のところ至ってないもの、イノベーションと見ていいのでは、イノベーションに近いかな、というものを幾つかあげてみたい。(筆者の独断と偏見で挙げていますのでこの点はご容赦下さい。)
(1) 耐圧250キロ以上のレギュレータ等
筆者がダイビングを始めて数年経過したころ(1990年代半ばから後半)、その当時によくお世話になっていたインストラクターが「しばらくすると、耐圧250kg/cm2以上のレギュレータが多分出てきますよ。圧力が上がるのでタンクなども少し小さくできるかも・・・」と話していた。しかし、現時点(2024年夏)でそのようになっていない。
もし小型高圧化が達成できていれば、この時期に派手に宣伝していた「グランブルー・フィーノ」といった、セミクローズドサーキットのダイビング器材はどうなっていただろうか?同時期にあった「ブーメラン」もより本格的になっていたのかもしれない。
(2) デジタルカメラ&水中ハウジング
ここ20年強でダイビングの様相を相当に変えたと言ってよいのではないか。
デジタルカメラはダイビング用に開発されたものではないが、このカメラの小型高画質化とデジカメ用水中ハウジングの発売で、誰もが手軽に、しかも枚数をあまり気にせず、綺麗な水中写真や動画を撮れるようになった。今は更に進んで、GoProに代表される小型アクションカムを装着して潜る人も多いのは各位御存じのとおり。
もしこれがなかったら、筆者は今でも時々「潜ルンです」を持って潜るくらいにとどめていただろう。
(3) 蛇腹式でないBCの中圧ホース
中圧ホースの蛇腹は目立つし邪魔ですよね〜、という話は前から割とよく聞く話。マレスの「エアトリム」、アクアラングの「i3」として商品化されているが、どうも排気の微調整が行いにくいこと、BCD内部の洗浄に手間がかかるそうで、あまり広まっていないようである。ちょっと残念。
(4) ウォッチ型ダイブコンピュータ
筆者がダイビングを始めた1990年代前半で、既にリスト型の「アラジン」が存在していたので、その時点で予想はされたものであるが、小型化と多機能化でスマートウォッチの機能も付いて、ダイビング以外の日常生活時に装着していてもいいのでは、というものも増えてきた。
上記には入れなかったが、スーツ関係では電熱器の入った「ヒートベスト」は市販されているし、バッテリーの進歩で今後より長時間使用可能なもの、軽量なものが出てくるだろう。そうすれば、「冬場はインナーを着込んでダイビング」というのも過去の話になるかもしれない。
これ以外に、スーツでも素材を見るとイノベーションと見てよいのではというものがあるし、電気製品では小型の水中通話装置などがあるが、本稿では割愛した。この点はご容赦頂きたい。
注:写真は記事と関係ありません。
文責:折原俊哉(恵比寿潜酔会・懇親会系幹事)