地球の潜り方
その9 =空気は怖い?=
各位御存知の通り、レジャーダイビング用のタンクの使用圧力は1平方センチ当たり200キログラム(以下「キロ」と略す)程度である。
今回は、200キロという圧力がどの程度のものであるか確認してみよう。
以下は、身の回りにあるか、我々の仕事や生活を支えているものに関し、圧力に関連するものを取り上げてみたものである。
・電力会社の発電所のボイラの蒸気圧力:200キロ以上
・大規模工場のボイラの蒸気圧力:100~200キロ
・ごみ焼却炉ボイラの蒸気圧力:10~100キロ
・その他小型ボイラの蒸気圧力:10~20キロ
・蒸気機関車のボイラの蒸気圧力:10~20キロ
・飛行機の油圧系統の作動油の圧力:200キロ以上
・産業用の油圧機械の作動油の圧力:200~300キロ
上記はほんの一例であるが、200キロという数字は決して低い数値ではないことが分かるかと思う。(なお、上記の数値は筆者の知り得た部分をもとに記載しているので、業界の常識等から外れている部分もあると思われるが、この点は容赦頂きたい。)
圧力のかかっている気体というのは非常に怖いものである。それは、学校で教わるとおり、気体は液体と違い、圧力がかかると圧縮し放てば膨張してドカンと勢いよく飛び出すからである。圧力が低ければ大したことないだろうと思われがちだが、そんなことはない。かなり昔に、ある工場で大きな容器で空気を用いた圧力試験を行っていて、試験後の空気抜き作業中に、容器内の圧力が大気圧に近づいた(恐らく数キロまでは下がっていたと思われる)ので作業者がマンホールを開けようとしたところ、残圧で急にマンホールが勢いよく開き、作業者がマンホールに叩かれて死んでしまったということもあったそうである。
(これに対し液体の場合、圧力が加わっても殆ど圧縮されない。かつて筆者も業務上で高圧設備の圧力試験に立ち会ったが、液体で試験が出来る部分は液体で行う。)
ダイビング用タンクはボイラ等と比較すれば非常に小さな容器であり、かつ高温でもないので、上述のような死亡事故が簡単に起こる訳ではないが、高圧であることには変わりはなく、取扱には一定の注意が必要である。ライセンス取得時に学科講習で習ったとおり、高圧空気充填作業は法規に基づく規制・取り締まりの対象である。日本国内においてはダイビングショップのコンプレッサー室に「高圧ガス製造所」の札がかかっていることに気がついている方も多いと思う。
法定点検の実施、使用後の水洗い等々適切に管理を行っていれば、タンクそのものに重大な欠陥がない限りは事故を起こす可能性は極めて低いと思われる。よって、「圧縮空気は怖い」と必要以上に恐れることはない。(もし上記を読んで怖くなってしまった人がいたらご免なさい。)
我々使用する側も、タンクに極力衝撃を与えない等の、出来る限りの注意はしたいものだ。
=※=
数年前に沖縄県でアルミ製タンクの破損事故があったが、これに関連して聞いた話では、ダイビングショップの軒先でアクセサリー代わりに使われていた中古のタンクなど、しばらく使用しておらず保守も充分に行われていないものばかりをかき集めて使う悪質なショップがあったらしい。
その当時、某コンプレッサーメーカーが、「当社製品でアルミタンクには充填しないで下さい」との広告を出していた記憶があるが、訴訟などに巻き込まれることを防ぐためとはいえ、少々やりすぎではないかとその当時思った。
文責:折原 俊哉(会員)